「医療管理」とは
いくつか並んでいる県歯科医師会の委員会名の中で、私達の「医療管理」ということばが皆さんにとっては一番ピンと来ないと思います。まずこのことばからご紹介したいと思います。
歯科医療は学問のみで成り立つものではありません。多くの歯科医師は個人事業主として歯科医院を経営し、あるいは歯科医院や病院に勤務しています。歯科医院やそこで営まれる歯科医療は、あくまでも社会の一員として、そのルールの中で行われていかなければなりません。
また歯科医師のほとんどは、歯科医療を生計を支える「医業」として行っているわけで、それが経営的に成り立っていかなければ、いくら志が高くとも破綻してしまいます。
さらに歯科医療は歯科医師のみではなく、歯科医院で働く歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手、受付事務員などの内部スタッフ、歯科技工所、歯科材料商、薬剤商などの直接取引先、歯科材料メーカー、機械メーカー、製薬会社などの企業、さらには税理士、社労士、歯科医師会など、数え切れない人や会杜とつながりを持って、はじめて成り立っています。
「医療管理」とは、主にこのような歯科医療と社会との接点について、歯科医療が円滑かつ効率的に行えるように調査研究し、まさに「管理」していくことをいいます。性質上その中には非常に雑駁な分野が含まれ、「なんでも屋」ではありますが、同時に歯科医療にとっては無くてはならないものでもあります。
群馬県歯科医師会医療管理委員会の事業
上記のような点から、当委員会では以下のような事業を行っています。
歯科助手講習会の開催
歯科医療を行う上で歯科医師を補佐するスタッフは不可欠のものです。その中で、歯科技工士、歯科衛生士には専門の教育機関があり、国家資格を有するものですが、もう1つの重要な職種である「歯科助手」には特に決められた教育制度がありません。民間の専門学校も大都市には存在しますが、基本的に勤務歯科医院の先生による徒弟的な教育が行われているのが現状です。
当委員会では歯科助手に対し、基礎的な歯科医学、標準的な臨床知識を教育するために「歯科助手講習会」を実施しています。そしてこの講習会修了者には日本歯科医師会の認定する歯科助手資格が与えられます。また近年では、すでに勤務している歯科助手のみでなく、一般県民もその対象にしています。
医療廃棄物関係
現代の日本社会において、「ゴミ間題」は深刻です。焼却に伴うダイオキシンの発生、最終処分場の不足、不法投棄などの多くの問題に関心が集まっています。これに加え、医療機関からは「感染性廃棄物」と呼ばれるゴミが発生する事が特徴といえます。
感染性廃棄物は量的には多くなく、また適切な施設での焼却によって感染性は容易に無くなりますが、鋭利な注射針を含んだりするため、処理や運搬において細心の注意を要します。したがって、適切な業者を選定し、適正に委託して回収させなければなりません。
当委員会では、廃棄物の適切処理について会員歯科医院に情報を提供し啓発活動をするとともに、処理場の視察等処理業者に対する監視活動を行っています。
労務管理関係
ほとんどの歯科医院は、歯科医師会会員である院長のもと、複数の従業員によって成り立っています。当然ながらこれらの従業員には労働基準法等の労働諸法規が適用され、労働者としての権利が保証されます。しかし個人事業主である院長が年々改正されるこれらの法律の情報を収集し実施していくことは容易ではありません。
当委員会では労務管理関係の情報を収集し、会員各歯科医院で従業員にとって適切な労働環境が確保される様に、啓発活動を行っています。
またこれに関連した事業として、会員歯科医院に勤務する従業員のモチベーションの向上のため、5年勤務者、10年勤務者に対しての永年勤続者表彰を行っています。
歯科医院経営に関して
われわれが県民に対して良質な歯科医療を提供するためには、歯科医院が健全な経済的状況であることが不可欠です。患者さんに対して十分な説明をし丁寧な治療をするための時間的余裕、良質な材料を使用し優秀なスタッフを雇用するための経済的余裕、これらを生み出すためには歯科医院の健全な経営が必要といえます。
しかしながらわたしたち歯科医師の多くは、歯科医学、歯科医療のプロではあっても、経営に関しては勉強不足です。当委員会では、歯科医院経営セミナーの開催、税務関係の情報提供などを通じて、歯科医院の健全な経営を進めています。
産業歯科について
働く人達のお口の健康を目的とするのが、「産業歯科」といわれる分野です。勤労者のロ腔の健康状態を改善することは、全身の健康に対しても良い影響を与え、企業にとっては保健医療費の削減、労働能率の向上などに連なるともいわれています。当委員会は同じく公衆衛生委員会と協力し、歯科保健大会における産業歯科分野の主催、研修会の開催などを行っています。
医療管理的分野についてのQ&A
ここでは、歯科について皆さんが疑問に思いがちなことについて、医療管理的な分野からお答えします。
- 歯医者さんにはどうして「保険」と「自費」があるのですか。
- 歯科のみならず、社会保険制度では、医療行為に関して保険で給付されるものを細かく定めています。したがって、通常よりも高度な医療行為、必要不可欠以上の検査、特別な材料や薬剤などは、保険給付の対象にならず、全額患者さんの負担である「自由診療」になります。歯科に関しては、主に補綴物(歯に装着する冠や義歯など)のうち材料や装置が保険給付外の場合、またインプラント治療、矯正治療などがこの対象になります。医科に比べてこれが大きく見えるのは、私達や患者さんが必要と考える治療に対し、保険給付の範囲が狭いからと考えられます。これは現在までの保険制度の歴史、歯科医療の特殊性など、さまざまな要因によって作られてきたものです。
- 治療費について、歯医者さんはどうも不明瞭な感じがするのですが。
- それはどうしても「保険」と「自由診療」があるからだと思います。ほとんどの歯科医院では保険と自費の二本立てで治療を行なっていますが、医院側の説明不足や患者さんの誤解により、その明白な線引き、事前の説明と納得が行なわれていない事がありがちなのだと思います。一連の診療の途中で疑問に思われたときは、ぜひ納得いくまで先生にお聞きになる事をお勧めします。
- 歯医者さんで領収書をもらえるのですか。
- きちんと経理、経営が行なわれている歯科医院では、領収書の発行は当然の事です。
医療費控除等の問題もありますので、領収書はきちんと保存する事をお勧めします。ただその形式は、手書きの領収の場合、レシートを発行する場合など、医院によって異なります。
- 歯科関係の仕事に興味があるのですが。
- 歯科医師は別として、歯科医院や歯科医療関係で直接働く職種はいくつかあります。
歯科技工士は冠や義歯などの製作にあたり、歯科医院での勤務のほか歯科技工所に勤めたり、自営したりしています。歯科衛生士は歯科医師の診療補助やロ腔衛生指導、歯石除去や予防処置などの診療行為も行ないます。これらの2職種は、2~4年の専門教育を修了した後、国家試験により免許証が与えられています。それ以外に、歯科医師の診療補助や機械器具の準備などを行なう歯科助手、医療事務を行なう受付事務員などの仕事があります。歯科助手に関しては夏季に当委員会で一般県民も対象とした講習会を行なっています。
また歯科医院への就職に関しては、無料職業紹介所で取り扱っていますので、お間い合わせ下さい。